森の中の散策路
施主は元々、このマンション北西角の一室を所有、隣の北東角の一室の購入を機に、トータル約250m2をスケルトン化した上、一体の住宅としてフルリノベーションすることにした。当該マンションは都心にありながらも近隣の大使館や迎賓館の庭園に隣接、5階の施主宅はその大木の枝張が最も広がり、その借景を楽しめる特異点に位置している。施主はこの豊かな環境を十分に享受出来る住まいであること、そしてフラットタイプの住宅としてはやや広めの面積全体を常に利用している感覚になれることを希望した。連続的に広がる森のような風景を分断していた外周部に等間隔にある大きな柱を羽目板で化粧して、木製サッシと交互に連続させることで、柱の存在感を低減させつつ連続する緑の借景を前景化させた。その上で外周部との取り合いは家具や壁ではなく必ず引戸にすることで、引戸を開け放てば家全体を森の中を散策するように自由に歩き回れるようにした。
ダイニングはリビングやダイニングと繋がりながらも落ち着いた場所に
ダイニングは30畳を超えるリビングやキッチンと視覚的に繋がりながらもコーナー部分に配置することで、背後にあるチークの羽目板壁が落ち着きを、隣地の森を捉える横長窓が開放感を醸し出す。施主の要望通り、大人数で座れるベンチシートを併設している。
作業性と意匠性を論理的に両立させたキッチン
キッチンはリビングにもダイニングにもアクセスし易い場所に位置していて、家全体を巡る経路の一部として通過動線にもなっている。キッチン空間は作業台を中心に据え、その周りをL字のシンク+コンロカウンター、ビルトインオーブンのある家電カウンター、壁面パントリー収納がぐるりと囲うことで作業性を優先させている。下膳スペースとコンロ、家電カウンターは_ダイニングやリビングから見えないように壁で隠す一方、キッチンから最も眺望の良いコーナー方向を見通せるように開口している。通過動線でありながらも、キッチンとしての視覚的まとまりが確保出来るように天井の梁はキッチンを囲むようにタイルでR形状に化粧している。
子供のための図工室兼母親のための書斎
リビングや廊下とは壁ではなく引戸と造作家具で区画される。引戸を開け放てば、やはりここも通過動線になり、造作家具だけが残ることになる。造作家具は施主の使い勝手に応じて構成が決められデザインするので、一つとして同じデザインのものはない。施主の所有するデスクをそのまま中央に配置した。
主寝室と子供室
主寝室はウォークインクロゼットを抜けた先の落ち着いた場所にある。2人分の子供部屋は、現在は通り抜けられるようになっていて、後に2分割出来るようになっている。いずれの部屋も他の場所とは造作家具と引戸で区画され、引戸を開け放てば造作家具だけが残ることになる。造作家具は施主の使い勝手に応じて構成が決められデザインするので、一つとして同じデザインのものはない。
連続する緑の前景化と、柱の量塊感の背景化を可能にするディテール
鉄筋コンクリートラーメン構造による高層マンションであるが故、外周部に等間隔にある大きな柱の量塊感が、北から南まで連続的に広がる森のような風景を分断してしまっていた。そこで幅40mmのチークの羽目板でその柱を化粧することで共存するチーク製造作家具に存在感を近づけ、更に外周部の梁を隠すように設置した白いカーテンボックス下端を直行する天井梁より下げて、交互に並ぶ柱とサッシを繋ぐようにぐるりと巡らすことで、構造の存在感を低減させつつ連続する緑の借景を前景化させた。
自由な回遊動線を可能にする引き戸のディテール
開口部を必要とする各個室は外周側に並ぶが、外周部との取り合いは家具や壁ではなく必ず引戸にすることで、引戸を開け放てば家全体を自由に歩き回ることができるだけでなく、緑の借景が連続するようになる。プライバシーを確保すべく引戸を閉めれば完全に個室化=動き回れない部分になるが、別の経路選択をすることで目的の場所に辿り着くことが出来るようになっている。
回遊出来る水回りと回遊出来ない水回り
洗面室とドライルームを兼ねたユーティリティーは、やはり回遊出来るようになっていて、回遊出来ないのは最もプライバシーが必要とされるトイレやバスルームだけである。それらは回遊動線の終着点として、各々個性的で印象的なデザインが施される。
回遊を示唆する玄関の印象的な光
マンションリノベーションでは玄関に自然光をもたらすのは難しい。ここでは様々な方向に開かれた経路の先から印象的な自然光が差し込むように計画されている。