森の素形
敷地は山麓に位置し、遠景にはピンネシリから暑寒別岳、近景には四季折々の表情を見せる森、と実に借景に恵まれた環境であった。錆びた鉄板敷の長いアプローチを抜けた崖の上にこの「森の素形」はある。グレーに退色したその佇まいは、雑木群の繫茂する力強さや厳しい冬の風雪に耐え忍ぶかのような端然とした表情をまとっている。何度か森の中を歩くうちに、この森の延長のような空間、生命力に満ちた木々を純粋な幾何に換言し、同化してゆきながらも自立する輪郭を与えたいと思うに至った。つまりは「森の素形」という状態を見出し、大きな幹のような構造体を崖の木々と呼応させるようレイヤー状に4列立ち並べることとした。
玄関と吹き抜ける内部空間
粗いコンクリート壁に導かれた玄関の構えは狭く、銅板扉で介された玄関内は一転して広い。大きく穿たれた開口は意識を外の森へと自ずと導き、折紙のような鉄板の螺旋階段は上階へと視線を誘う。また、住居の背骨部分には長大な家具の木々が聳え立ち、家族はそれを縫うように生活をする。この家具の森を含む4層のレイヤーによって「外の間」や「吹抜」といった空間的豊かさも数多く内包することができた。
森と繋がる住空間
玄関から家具の森に沿って歩みを進めると、やや下がったところに居間が開ける。床は外の地面と同じ高さとなり庭の草花を近くに愛でることができ
銀板に映る四季の移ろい
家具の木々に架けられた廻廊のような二階は森の空中を歩くような感覚を与え、大小四つの吹抜けは上下にいる家族の存在を紡いでゆく。また、吹抜上部の天井は鈍い反射性を与えることにより奥行きが生じ、あたかも空に近い状態となった。この銀盤の空は春夏の深緑や秋の紅葉、冬の白銀世界を映し込み、室内を四季色に染め上げている。
新しい感性を生む住まい
各「間」には外の森の枝葉を抽象化した大きな板が銀盤の空の下に浮かび、木陰のような「間」に佇んでは自然の美しさを感受する。小さいながら複雑で、どこまでも終わりのないような住宅となった。僕らはこの森の原型のような場所でnLDKという概念から解き放たれた新たな感性を育くもうとしている。