障子スクリーンハウス
敷地は大阪市中央区、上町台地の起伏に富んだ地形にある空堀商店街の北側に位置する。この辺りは大阪大空襲での焼失を奇跡的に免れ、昔ながらの長屋などが今も残り、狭い路地が複雑に入り組んでいる。道路から幅約2mの路地を30m程進み、更にクランクした路地に接している僅か19坪の狭小敷地は周囲を三階建て住宅などに囲まれ、南側は高さ4mの2段擁壁の上に更に3階建て住居がそびえ立つ。更地の敷地に立った時、空を見上げると井戸の底に居るような気がした。ここにリタイヤした60代の夫婦の終の住処を計画した。
ガラス張りのアプローチ
設計当初、南側石垣を建物に取り込む提案をしたが、奥さんが虫や小動物が苦手なため、自己完結型のプランへとシフトした。しかしこの歴史を積み重ねた街とのかかわりも残したい。そこで路地を延長させたようなアプローチに。道路斜線も厳しく、また2人暮らしなので無理に2階建てにせず平屋とした。ガラス張りの入り口とそこに光庭を設け、ガラス張りのサニタリースペースをアプローチの前に配置した。
開放感のある抽象的な空間
プライバシーと明るさを両立させつつ最大限の空間を確保するため、13坪の平屋に1.5層分の天井高(3.9m)を与え、所々に設けた光庭の開口に日本の伝統素材である和紙を施すことで、わずかな光を拡散し、柔らかな光に満たされた亜空間のような抽象的な空間となった。大きな開口(メインの障子スクリーン)の裏は物干しテラスとなっている。
光庭から光が降り注ぐ寝室とロフト
寝室は一番奥に。キッチン横に光庭を設け、寝室は光庭と繋がり日中はそこから十分な採光を得ることができる。寝室の上部にロフトを設け、障子のスクリーンの前のキャットウォークから繋がる階段を上がると、ロフトスペースとなる。光庭からはロフトスペースにも光が差し込み明るい。ロフトは現在ご主人の寝室だそう。
都市型の狭小住宅での豊かな暮らし
ここに住みはじめて「大阪市内であればほとんど自転車で行ってしまう」というご主人と「駅から商店街を通るとアーケードのおかげで雨にも濡れず買い物して帰ってこ来られる」という奥さんにとって街をキャンプサイトと見立てると、この家はテントのように小さいけれど、超過密都市での暮らしとしてちょうどいいのかもしれない。
[Photo : Eiji Tomita]