中と外が一体する平屋
なだらかに広がる農耕地に点在する屋敷林の風景は、散居村の名残を感じさせる。敷地は畑と竹やぶに囲まれた奥行きの深い土地だった。建主の要望は、木造平屋建で屋外プールを設けることと「大きな居間」。その場所に立ち、肌で感じそこにある風景に足し引きすることから設計を始める。敷地とその周辺に抑揚がなく平坦につながっていく事に心もとなさを感じた。それと同時に、この計画地の特徴のひとつである「敷地の奥行」を感じさせ、建物内外を一体化させる事が「大きな居間」にさらなる広がりを与えると考えた。
プールのある庭とつながる「大きな居間」
提案したプランは「大きな居間」の南北に大開口を設け、南の道路側には緩やかな領域をつくるマウンド状の緑地、敷地の北側には十五メートルプールと芝庭を配することにより建物内外を一体化するもの。前面道路から垂直に伸びる軸線に、緑地、居間、プールの庭が続き、居間の横幅いっぱいの大開口部により、それらの空間が視覚的に連続する。また建物部分は、マウンドや地面に落とし込まれたプール等のグラウンドワークに対峙する、シンプルな形状の屋根が低く薄く浮いている計画とした。「大きな居間」を効果的に見せるためには、その大空間に柱など視界を遮るものの存在が無い方がよい。
柱を落とさない構造
居間の大空間に柱を落とさない事とした時点で、屋根の中央部に何らかの構造上の支持部材が必要となる事が予想された。できればその構造形態を活かし、伸びやかな空間を表現したい。そのため屋根中央を支える各部材の寸法は極限まで絞り、木とスチールが編み込まれた軽やかなデザインの構造トラスとなった。居間の東西には耐震要素となる諸室を組み合わせた。
奥行きがあり視線が抜ける
東側に玄関と納戸を、西側に寝室と水回りを配置している。パブリックゾーンである玄関からプライベートゾーンの寝室側に向かう際「大きな居間」を横切る事になる。その動線は居間の中央となるが、構造トラスの連続感とトップライトからの光によって緩やかに暗示させる事とした。
新たなライフスタイルを楽しむ
建主は柱のない「大きな居間」の大空間に驚き、新たな価値観を見いだしている。週末には多くの仲間を招き、キッチンで料理を作りながら、プールサイドでバーベキューをしながらホームパーティーを楽しんでいるそうだ。