グランピング感を楽しむ平屋
家の設計の始まり。それは、施工主のご家族が増えたことがきっかけであった。「一軒家に暮らしたい」という要望と、「好きな物に囲まれて過ごしたい」というライフスタイルから始まった。シンプルな住まいでありながら、かつ、そこに住む人間によって見える景色や彩りが変わるような住居を希望していた。また、法的な床面積も一般的な広さより小さくなることを前提に家づくりにとりかかった。施工主と何度もヒアリングを重ねた上で、これらの全ての要望を叶えるべく、2つのコンセプト『平屋』『量より質』を両立できるような設計を実施した。
flat building ~平屋~
最も特徴的な要素は、何と言っても敷地の両端まである塀。ここでの目的は、限られたコスト内でいかにプライバシー感のある空間をどう創るかであった。『プライバシー感のある空間』と『閉塞感がない空間』の双方を満たせるような堀を設計した。ただ、住宅地内に塀のみの空間では圧迫感がある。そこで、塀と建物の配置を道路平行線上からずらし、隣地の窓に対して建物を平行にしない事により、内部と外部の視線が対面的ではなくなり、ズレが気になりにくくなる。また、その結果として4つの庭が生まれ、その時折の居心地の良い場所を選択できることも、魅力の一つとなった。
動線の確保
動線としてリビングから繋がる各部屋には明確な玄関や、一見、一部廊下に見えるトイレ前も洗面を兼ねる設計。家事動線も考え、玄関土間と通り土間を一体にし、勝手口とのつながりを取っている。子供部屋は将来2つの部屋になることも想定している。仕上げは、漆喰、無垢フローリングで行っている。
quality before quantity ~量より質~
お客様はコンパクトでありながらも、「質」を重視していた。昨今の世の中では、『情報過多』かつ『物質過多』の中、ミニマリズムが見直されつつある。
そのために工夫した例の一つ。それは、“玄関ポーチ 兼 アウトドアリビング”だ。ここは玄関ポーチでありながらも、ちょっとしたアウトドアも実施できる空間となっている。施工主のご家族が増えたことで、活動内容も様々に変化する。“玄関ポーチ”というスペースにおいても、家族で彩り豊かな思い出を作ってほしいと願っている。
綺麗で心地いい空気を取り込む
換気設備は、濾過した空気を室内へ取り込むフィルターがポイントだ。設計時の想いは、何よりも、『ご家族がいつまでも健康でいてほしい』ということ。外気の不純物を除去するフィルターを介した第2種換気を採用し、住宅の隅々までクリーンな空気の循環が生まれるようにした。また、木造用の吹き付け断熱材を使用し、サッシも複層ガラスで断熱性を高めた。
照明計画
照明計画は、物の見やすさに重きを置いた。明るさの「量」をもとめる「光量過多」を見直し、夜を心地よく暮らし、影や暗さを肯定するあかりを追求した照明計画である。天井のダウンライトは、照明が「点灯」しているのに「消灯」しているように錯覚する「グレアレスダウンライト」を採用。器具の存在が抑えられ、不快な眩しさも排除した。サイズも、Φ50と小さな照明器具を採用。
照明器具の存在が抑えられた天井面は、空間の美しさと洗練されたミニマムリズムが共存している。
これからの住宅のかたち
大量生産・大量消費の時代はもう終わりつつある。これからは、コンパクトで好きなものだけに囲まれながらも質がよく使い勝手のよいことが求められる時代だ。先人たちの挑戦を見習いつつ、今後の住宅事情に新たな息吹、モデルとなるあり方になる事を願っている。
[Photo : 下村康典]