3つの風景が交らう平屋
立地は兵庫県の丹波市。天然記念物の巨大な杉と、川が流れる長閑な田園風景の山内に位置する。郊外の住宅設計の特徴として、建築家の多くは“美しい景色を室内へいかに切り取るか”の「借景」をメインに考えがちで、今回も計画当初はそう考えていた。しかし、仕事で海外を飛び回る施主にとって、この周辺の風景を眺める暮らしは単調に感じるご経験がおありであること、「プライバシーの確保」のご要望があった。豊かな自然環境の良さを生かしつつ都会にいるような、住み手の世界観に入り込める、洗練されて快適な暮らしを送りたいこと。その他にヒアリングで出てきた重要視する項目を順に並べると、「室温の快適性」「広く開放的なリビング」「各場所の広さ」「収納力」「プライバシー確保」の5つになった。
プライバシーを確保した外観
都会とは違う余裕のある敷地で、借景の考えは取り入れず、むしろ外から居住空間が見えない様にプライバシーを確保する。周辺景観へ配慮して、外観は軽やかな質実剛健を意識し凛としている。出てきたデザインのイメージキーワードは、一見相反する言葉が並ぶ「かわいさとかっこよさが共存するような家」だった。
開放的なLDK空間
スノーボードやキャンプなどアウトドアが趣味の家族にとって、収納は大切な項目のひとつだが、収納を多く取る分、生活空間に影響がでてしまう。そこで、リビングダイニング(以下LD)の面積を実際より広く感じさせるため、廊下とデッキもひっくるめてひとつのビッグワンルームとして見せる計画をした。家族が集まり過ごす毎日に、心地良さと庭の景色が自然に溶け込む空間である。
絵になる暮らし
LDの奥、プライベートゾーンにつながる子供室の扉の位置を、LDの壁のラインに揃え、より視覚的に広く感じるようにした。こうして生まれた壁面の余白をカンヴァスに見立てると、前を動く人、暮らしの風景が絵になり浮かび上がってくる。
快適性も備える
エントランスを入った横にあるゲストルームは、家族と程よい距離感にある。廊下は間仕切りを設けずLDの延長と捉えることで広くなる。デッキの窓は垂れ壁がなく、床から天井まで一面ガラス張りで家の内と外とが一体化して見える。窓の上からは有機的な風が吹く。長めにとった庇は夏の日差しは遮り、冬は奥まで陽が届く。庭側のダイニングチェアは、いつでも気軽に庭の景色を眺められるよう、背もたれなしのスツールにした。
造園計画
丹波の原風景ともいえる里地里山の雑木林の景観をお手本に、木漏れ日に包まれる空間を植栽で描いた。プライベートな中庭のデッキに腰掛けながら花の香りや潤い豊かな苔・シダ、大地と繋がる石、木々の揺らぎや爽やかな風、四季を通して変化する庭の表情を日々の暮らしの楽しみの一つにしていただきたく計画した。
プライベートで豊かさを存分に愉しめる住まい
住み手の感性・スタイルのこだわりは、豊かな里地里山に暮らし、庭に切り取った雑木林の大自然をプライベートに楽しむという、環境共生を主題とした日本の建築本来の土と木、そして草や紙などで構成されバランスの取れた豊かさと、外の視界的ノイズの少ない文化的な暮らしの風景を融合させた。それぞれが循環する理想の暮らしのスタイルを、家族の成長と共にこの家で育くむことを願っている。
[Photo : 下村康典]