建築家のアトリエ兼自邸
敷地の向かいに小野川と星岡山を望む。山・川・神社・公園などおそらく長い将来変化しないであろう環境を求め土地探しを続けた末、めぐり合わせた土地です。
まずは、背景となる小野川や星岡山に溶け込むような、自然で小ぶりな佇まいを心がけました。そして、建築そのものが主体となることなく、風景としての美しさが生まれることが理想です。
私たち家族にはさほど大きな家は必要ありません。アトリエ兼住居ですので、居住スペースと仕事スペースの程よい距離感を探りつつ、家族四人で肩を寄せ合って暮らしていきたいと考えました。街や風景を感じ、光と風を感じ、四季を感じながら、日々の何気ない営みを丁寧に暮らしていきたいと願っています。
狭い所、開けた所、明るい所、暗い所。一気にすべてが明らかになるのではなく、予感を感じながら次々と展開していくシーンの連続。朝から晩、春夏秋冬、5年後10年後・・・と多様な時間軸の中で豊かに変容していく建築。
その一瞬一瞬が奥行と豊かさに満たされますように。
外観
背景となる小野川や星岡山に溶け込むような、自然で小ぶりな佇まいを心がけました。建築そのものが主体となることなく、風景としての美しさが生まれることが理想です。植栽による四季折々の変化や、美しく経年変化していく様を供し、街行く人々にとっても安らぎを感じられる場所であることを願っています。
玄関・アトリエ
大らかながらも親密なスケール感の軒下空間を介し、まず安堵を覚えます。靴箱兼書棚により、仕事場と家族の動線に緩やか距離感を生み出しました。玄関に入った瞬間、ハイサイドライトが視線を空へと導きます。椅子に腰かけるとコクピットに座ったようなフィット感を得られればと考えました。
廊下・階段
狭い入口ながらも視線の先に広がりや明るさを予感させることで、気持ちの切替えと空間体験としての広がりを生み出しています。また機能面でも通路としての要のみでなく、職住両用の納戸の役割を、配置的にも家の中心となる位置で担ってくれています。このように裏方的な存在でありつつも、計画の骨子となっています。
主寝室
西向きなため、目覚めには順光に輝く星岡山を望むことができます。開口部を絞ることで、プライバシーの確保と共に、切り取られる風景の美しさが際立つようにも考えました。天井高さは2100mmと低く抑えています。立った時の印象ではなく、ベッドに腰かけたり、寝転んだ時に包まれる様な重心の低いスケール感を心がけています。
LDK
開放的でありながら安心感のある、緑と光に包まれた柔らかな空間を目指しました。大きな壁面により光のグラデーションが生まれ、空間に奥行と深みが出ることを期待しています。壁天井は明るすぎない自然な色味の白土を用いています。
星岡山を望むメインの開口は西向きです。一般的に西面に大開口はタブーとされますが、西側にある星岡山の配置上、春~秋にかけての真西~北西に日没する日射は遮られ、南西に日没する冬は西日を取り入れることができます。また「西日は暑い」というデメリットにばかり目を向けるのではなく、この場所ならではの魅力や特徴を前向きに捉え、積極的に取り入れていくという姿勢の方が寛容であるとも考えました。朝は順光に輝く星岡山、夕はオレンジ色に染まった西の空。当たり前の日常に感動的な時間が流れます。
常識に捉われ、思考停止になることなく、一つ一つの敷地環境や要望を注意深く観察することは常に心がけていることです。
デッキテラス
一連のシークエンスのクライマックスであり、ある種、舞台のような場所。星岡山をより身近に感じられると共に、南側の川下に向けた超遠景を感じられます。夕暮れ時、小野川の川下からいつも心地よい風が流れてきます。袖壁が風を受けとめ、リビングに優しい空気の流れができるようにと考えました。大きな屋根に包まれた、開放的かつプライベートな空間。この大きな軒の出により、内と外の境界は曖昧になります。この中間領域こそ最も心地よい空間だと考えています。オレンジ色に染まった西の空を眺めながら、七輪を出したりなんかして、穏やかにゆったりと夕食を楽しむのが夢です。