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より印象的な日常に。食とお酒を最高に愉しめる空間とは

0LDKの桜庭です。食やお酒を愉しむための一番大きい要素としては「空間」が非常に重要となってきます。空間によって愉しみ方は大きく左右されていくのです。そこで今回は、建築家であり、食やお酒に非常に関心が深い、前田篤伸建築都市設計事務所の代表 前田篤伸氏に食・お酒とその空間についてお話を伺いました。前田氏が設計を手掛けた、フレンチレストラン 「ペタル ドゥ サクラ」にて、その美しい空間の中で美食と美酒を堪能しながら、建築・インテリアとの関係性について語って頂きました。

美食と美酒のために考えられた建築

フレンチレストラン「ペタル ドゥ サクラ」の外観
[Photo:淺川敏]

前田篤伸建築都市設計事務所

神奈川県横浜市に事務所を構える建築設計事務所。2003年に設立以来、住宅や商業施設、医療施設や教育施設等の新築設計・改修設計を主に手がけています。代表の前田篤伸氏は国内・国外の両方での実務経験が豊富であり、個のライフスタイルに合わせた他にはない唯一無二の住宅づくりを行います。

桜庭:大変素敵なレストランですね。落ち着いた雰囲気でとても居心地が良く、外も感じられて食やお酒を愉しむためには最適な空間だと感じます。やはり、建築は食に大きく関わってくるのでしょうか?

前田:そうですね。まず、「ペタル ドゥ サクラ」を設計するにあたり、お客様がどのように居心地よく料理を愉しめるかを一番に考え設計しました。また、美しい料理の邪魔にならないよう、どう料理を引き立たせる空間ができるのかも考えてました。

桜庭:具体的にはどのようなアイデアで設計なさったのですか?

前田:食事をしている時に、客席から感じられる光の入り方、壁などの素材感や窓から見える風景を考えながら、天井高や窓の大きさ・位置などを模型で確認して決めました。床・壁・天井は、自然素材を用いてその素材が持つ色で表現をしています。これにより、落ち着いた空間が生まれ、それが料理を愉しむための空間になるのではないかと考えました。

ペタル ドゥ サクラの内観
[Photo:淺川敏]

桜庭:食事を愉しむために、綿密に計画され尽くしているのですね。

前田:さらに大事となるのが、照明です。ここでは、著名な照明デザイナーである岡安泉さんに照明計画を依頼しました。飲食店だとペンダントライトを設けているところが多いのですが、それだと埃が気になったりします。照明はできるだけ隠したいというのがあり、あまり目立たないように、という意図を組んでいただいて計画して頂きました。

桜庭:確かに照明が目立っていませんね!住宅でもダイニングの照明を隠したりすることもあるのでしょうか?

前田:あります。特に夜は照明の演出が大きく感じられるので、非常に大事だと思います。住宅であれば、シンボルとしてペンダントライトを取り入れるのも良いと考えています。
ここの照明は、料理を照らすための照明です。光の色というのは料理を美しく見せるために非常に重要であり、LEDの性能によって料理の見え方は大きく変わります。シェフと一緒に岡安さんの事務所を訪れ、異なる照明器具の光で食材を照らし、比較検討して決めました。

桜庭:こちらの照明は料理を美しく見せるためにこだわり尽くしているのですね。

前田:また、この敷地の大きな特徴は、線路沿いの桜並木に面しているところです。これを活かすために開口の大きさや位置、客席やキッチンの位置が決まっていきますよね。春には客席から満開の桜を楽しめるように設計しています。川、山、海など特徴を持つ土地も様々だと思いますが、それを活かすことも愉しみ方の一つです。そういった要素を総合的に考えて、設計していきます。

インテリアとしての美食・美酒

[Photo:淺川敏]

桜庭:インテリアについてお伺いしたいのですが、プレートやグラスなど、住宅でもレストランのようなディスプレイを取り入れることはあるのでしょうか?

前田:ありますが、住む方のライフスタイルによりますね。例えば、グラスを魅せるディスプレイとすると、ここのように吊るすという選択肢ももちろんあります。ただ、吊るされたグラスを頻繁に使えば問題ないのですが、そうでないと埃がたまってきたり掃除が大変だったりします。現実的に考えて、グラスなどは全て収納してしまうという方も多いです。
もちろん掃除も好きで、グラスなどディスプレイして魅せることにより豊かさを感じるので、ディスプレイしたいという方もいます。

桜庭:なるほど、日々生活する場所となる住宅だと、掃除やメンテナンスも含めて考えないといけないですよね。お酒が好きな方だと、ボトルを並べたりして愛でたい、などあるのでしょうか?

前田:あります、空になったワインのボトルで壁を作ってみたり、とかも面白いと思います(笑)
空間一つをワインセラーにしてしまうぐらいワインがお好きな方もいます。お酒が好きな人はボトルを飾り、アートが好きな人はアートを飾り、車が好きな人はリビングをガラス張りにして車庫を見えるようにしたり、などそれぞれの好きなものの愉しみ方、ディスプレイの仕方は様々だと思います。

[Photo:淺川敏]

桜庭:好きなものに囲まれて生活するのは、非常に豊かだと感じます。

前田:キャンプが好きな方は焚火をしながらお酒を愉しむ人も多いですね。それを住宅に当てはめて、暖炉を取り入れる方もいたりします。

桜庭:いろいろな選択肢がありおもしろいですね!

前田:あと、お酒を存分に愉しむ要素としては、テーブルの大きさも考えた方がいいかもしれません。テーブルの上に花を置いたりだとか、その日に飲むお酒を並べたりとか、食事も一緒にする場合は、大きめのテーブルがいいですね。リビングやダイニング、それぞれの場所と愉しみ方に応じて取り入れるのがいいかと思います。

桜庭:確かに、小さすぎると不便で、大きすぎるとスペースを取り過ぎてしまいますね。

前田:自分の生活をじっくり見つめる機会なんて滅多にないと思います。住宅設計の経験から、お施主様と対話を重ねるなかで初めてご自身が求めるライフスタイルが整理され、はっきりみえてくることも少なくありません。自分の好みや求めているものなど、それぞれ必ずあるはずなのです。それらがわかることで自分の好きな空間を追求するための方向性がみえてきます。

建築家の前田氏はこう愉しむ

桜庭:前田さんは普段からお酒など愉しまれたりするのでしょうか?

前田:はい。私はワインが一番好きなのですが、ワインはとてもおもしろくて奥が深いのです。色々な品種があったり、年代であったり、ワインを知るためにはいろんなことを学ばないといけないと思いました。歴史も、気候も土壌も植物も色んなことが繋がっています。

桜庭:確かにとても奥が深いと聞いたことがあります。

前田:ワインのおもしろさにハマり、ワイナリーに行くことがあります。海外ではアメリカ西海岸や、オーストラリアのワイナリーに行ったことがあります。ワイナリーは美術館など施設を併設しているところもあり、インスピレーションを受けたりします。

桜庭:ワイナリーですか!とても興味があります。

前田:ワインというのは一人で愉しむものではなく、人と一緒に飲んでコミュニケーションをとるようにデザインされているのです。文学や映画、ドラマに出ますし聖書にも記述されています。そういう面でも、私は一人で飲むというよりも、人と飲むことが好きで、その時間が豊かだと感じます。

桜庭:ワインとはそういった飲み物だったのですね。

前田:本当に奥が深いです。また最近は、植物が多い空間を好みます。観葉植物など自然にあふれた空間だと、リラックスもできますよね。
自分が愉しみ方を知ってれば、選択肢はどんどん広がっていきます。規格住宅や建売だと、すでにあるものに自分を合わせることになるとも言え、窮屈に感じることが出てくるかもしれません。

建築家である前田氏のルーツや美学

桜庭:前田さんのルーツや美学についてお聞かせください!

前田:まず、建築に興味を持ち始めたのは高校2年生の時でした。私は伊豆の小さな町の出身で、都市に対する憧れがありました。地理の授業で、オーストラリアのキャンベラとブラジルのブラジリアについて勉強した時があり、それら首都は何もない更地から人工的に造られた都市だ、と言うことを知って驚きました。誰も住んでいないところに、首都をつくるという目的を持って線を描き、国を代表する年ができたということに感銘を受けたのです。だから最初は、建築というよりも都市に対して興味を持ちました。

桜庭:そうだったのですね!

前田:建築については、高校3年の部活引退後に安藤忠雄さんの「住吉の長屋」という住宅が日本建築学会賞を受賞した特集記事でした。住み心地とか使い勝手の良さは全く感じられず、その時までに見てきた家とは全く違うものでした。それがなぜ学会賞を、しかも小さな住宅で受賞できたんだろう、という疑問から建築に対する興味が湧いてきました。

桜庭:安藤忠雄さんの記事がきっかけとなったのですね。

前田:そこから本格的に建築について学び始め、北大大学院時代、ボストンの設計事務所で勉強させて頂いたり、卒業後も日本の建築設計事務所で5年弱勤めた後、コロンビア大学に留学をしたりと、日本だけでなく海外での経験も積んでいきました。

桜庭:なぜ海外で建築を学ぼうと思ったのでしょうか?

前田:北大大学院時代に過ごしたボストンでの経験があったからこそだと思っています。お世話になった設計事務所にハーバード大学で非常勤講師の方がいらして、アメリカ、特にハーバード大学での建築教育について教えてもらいました。大学院卒業後、働きながらアメリカ留学を目指し、コロンビア大学大学院に入学することができました。卒業後は現地NYで働き、またカナダ・トロントでも仕事をして、北米での経験を積んでから日本に戻って独立しました。

桜庭:日本と海外のライフスタイルを比べると、やはり大きく違うところはあるのでしょうか?

前田:かなり特殊な例ではありますが、暮らしたことがあるニューヨークだと、広いアパートで暮らせる人は限られていて、ダイニングはレストラン、リビングはカフェや本屋で、家は寝に帰ためのもの、といったライフスタイルもあります。。ライフスタイルに合った住まいを考える、そのためにはまず自分のスタイルをよく理解することが最重要となりますね。

桜庭:それぞれのライフスタイルによって、住まいの形は変わる。私も自分のスタイルをもう一度見つめ直し、自分の理想の住まいを求めていきたいと思います。前田さん、ありがとうございました!

日本、海外、また日本においても各地の地域性によって住宅は違ってきます。まずは自身の生活様式や好きなものを追求した上で家づくりというものに取り組んでいくのがベスト、ということがわかりました。雑誌に載っている情報を全て真似していくのではなく、オリジナルの空間を作り出すことが窮屈のない豊かな住まいを作り出す最良の選択であると言えるでしょう。

「ペタル ドゥ サクラ」について

[Photo:淺川敏]

農家さんのもとを訪れ自ら収穫した食材をはじめとした厳選食材で薬膳を取り入れた料理をご用意。自然の旬の美味しさをたくさん感じられるメニューをお届けしています。

公式サイト:https://petaledesakura.com/

交通/相鉄いずみ野線「弥生台駅」より徒歩1分
〒245-0008 横浜市泉区弥生台5-2
Tel.045-443-5876
Lunch:11:30 – 15:00[14:00L.O]
Dinner:18:00 – 22:00[21:00L.O]
定休日/月曜日(要確認)

前田篤伸建築都市設計事務所 国内外の建築設計事務所勤務を経て、2003年に設立。住宅、商業施設、医療施設、教育施設等の新築設計・改修設計を手がけています。

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