日本の町家の気配を盛り込んだ現代住宅
「"和"のテイストを盛り込んで欲しい」、「"和風の門"をつくって欲しい」、というご要望に対して、室内については「陰影」と土間の「通り抜け空間」を要素として取り出し、通りに面しては厚さ12㎜の鉄板による寄せ棟シルエットの門構えに格子戸を嵌め込み、古い長屋の並ぶ街並みの中にインストールすることにしました。古い町に対して妻壁が強調されてしまうのは躊躇いもありましたが、現代町家は過去と同じかたちにはなり得ないと割り切りました。通り側の妻壁には、天窓を設け、時々刻々と変わる光のグラデーションを室内へと導く装置としています。1階の土間に個室と水回りを並べ、土間を介して2階に上がる階段があります。2階はほぼワンルームの吹き抜け空間とし、土間の上に小さな箱の部屋が乗ります。商業地域で敷地全体がマンションなどに囲まれる可能性も考え、2階にも天窓を設け、室内に屋外的なおおらかさを求めました。
陰影の豊かな玄関土間
敷地南側から広い玄関土間に入ると、影の濃い空間が拡がります。南に面した窓から光が差し、天窓からの光が壁にグラデーションをつくります。玄関であると同時に、1階と2階を繋ぐ緩衝スペースでもあり、子供たちが遊んだり、あるいは窓際に腰掛けてぼんやりする、というような、特定の目的を持たない空間となっています。
天窓からの光の差す主寝室
主寝室は土間に面していて、小上がりのように一段上がった床レベルにあります。障子を介して土間からの光が漏れてくる、わたしたちに馴染みのある、日本の住宅の記憶を辿りながら設計をしました。
家族があつまる大きなワンルームLDK
ほぼワンルームの吹き抜け空間となっている2階は、柱をなくし、大きなテントの中に暮らすような、伸びやかさをもたせました。天窓からの光は、夏にはかなり過酷な光を室内に落としますが、それもまた楽しみの一つのように、住みこなす御家族が頼もしく見えます。土間の上の吹抜には、引っ越す前から愛用してきたシャンデリアが吊されて、モノトーンの空間に華やかなアクセントを与えてくれました。吹抜の壁面には1階に差し込んだ光が反射してグラデーションをつくります。
ダイニングテーブルと一体化したキッチン
キッチンにはコンロと換気扇が見えないように配置されています。天板下のスペースに普段から使い慣れたIHクッキングヒーターが隠蔽されていて、必要に応じて取り出すようになっています。換気扇も特注のカウンター隠蔽型で、換気扇ダクトも一見するとどこにあるか分かりません。換気扇フードとダクトがないため、部屋としての一体感がより高まります。キッチンから見える二つの開口部は極小の子供室で、部屋に籠もらずに広いスペースに出てこれるよう配慮しています。
門
厚さ12ミリの鉄板と格子戸を組み合わせた門。夜間用の照明は鴨居上部に仕込まれて一見するとどこにあるか分かりません。