陶芸アトリエのある住宅

デザインのお仕事をされているご夫婦のアトリエ併用住宅。都内の住宅街にありながら、南側にはお隣の豊かな緑の林が広がっています。イギリスの陶芸家ルーシー・リーのアトリエのようなモダンな陶芸アトリエが1階にあり、外には趣味のガーデニングを楽しめるフランス田舎風の庭が広がります。 生活の場となる2階には、中央に設けた吹抜の周りに回遊動線を巡らせることで、生活動線と家事動線の効率化を図るとともに、生活の場とアトリエとの程よい関係を作っています。
二つの表情を持つ外観


限られた敷地の中で、2階を道路側に寄せて庇状に飛び出させ、その下に駐車スペースと玄関ポーチを設けることで、1階南側にテラスと庭のスペースを生み出ししました。道路側の1階の外壁は杉板張りで、玄関扉も同じ仕上げとして一体的に見せています。庭側にはアトリエと同じタイルを貼ったテラスを同じ高さで設け、内外の空間をつなげて広く見せています。
何かを予感させる玄関ホール



玄関を入ると南側の光が透けるガラスの飾り棚が迎えてくれます。タイルの床は玄関からホール、アトリエ、南のテラスまで続き、意識は自然と南の庭へと誘なわれます。建物中央のホールは上部が吹抜けていて、2階の住居スペースへの階段からも柔らかな光が降りてきます。下足入れは壁と同じ白い扉の中に隠れています。
電気釜のあるモダンな陶芸アトリエ



庭に面したアトリエでは、ご主人が炉を回し創作に耽りながらも、ときどき庭の緑に目をやり癒されます。アトリエの造付けた家具はロシアンバーチにクリア塗装。片方の壁は、汚れに強いレンガタイルで仕上げで、電気釜や流し台を置き、工具類はピクチャーレールで吊るします。アトリエは大きな引き戸でホールと分けることもできます。
フランス田舎風の南の庭



奥様の趣味のガーデンニングを楽しめる南の庭は板塀で囲っていて、道具置き場の白い小屋は奥行きを与える点景にもなっています。1階のテラスと2階のデッキテラスは軽やかな螺旋階段で行き来でき、外でもアトリエと住まいは繋がっています。
ホールと手洗いコーナー


ホールには奥様の思い出の家具が置かれ、奥には1階用のトイレと手洗いコーナー、大きな荷物を仕舞っておける3畳の納戸があります。手洗いコーナーの手洗い器はベッセル式で、水栓はスマートな壁出し。カウンターは人造大理石で、上下に仕込んだ間接照明で柔らかく照らします。仕上は清潔感の感じられる白で統一しています。
光と影が美しい階段


階段室には東側に設けた窓から朝の光が差し込み、吹抜けを通して1階のホールへも爽やかな光が届きます。階段の踏み板はフローリングの色に合わせ、上から見ても下から見ても、踏み板が浮いて見えるようにディテールを工夫。白い壁に描き出される光と影が美しい階段です。LDKと寝室の入り口の引き戸を開けると、寝室から隣地の緑まで視線が通ります。
南側デッキテラスに面したLDK



キッチンは、II型のアイランドキッチンを造作。ダイニングは家型断面の空間でリビングは片流れ断面の空間にして、垂れ壁で緩やかに空間を分けています。天井の高いリビングの一角に奥様の仕事場のデスクと吊り戸棚を造作。リビングの傾斜天井は階段側に抜けていきます。1階ホールとの間仕切りは、ガラス棚のあるフロストガラス。ガラス棚には自信の作品や試作品を並べて食事中に眺めながら思案します。片側を一部折り畳める楕円形のダイニングテーブルは、この住宅のためにウォールナットで製作しました。
2Fデッキテラスから桜を借景

LDKの外のデッキテラスに出れば空と緑を独り占め。デッキテラスにはリビング側とキッチン側の二箇所から出入りでき、螺旋階段で1階の庭やアトリエへ下りていくことができます。上部には雨や夏の日差しを遮る、シャープな庇をスチールで製作して取り付けています。
傾斜天井の落ち着いた寝室


北側の寝室は一部天井が高くなっていて、二方向の窓から光と風を取り込んでいます。入り口の引き戸を開けておけば、さらに風通しが増します。室内の2箇所に夫婦それぞれのクローゼットがあり、階段側の出入り口ほかに、水廻りへの出入り口がある2ウエイのプランになっています。
二人で並んで使える洗面スペース


この住宅の2階には行き止まりが無く、洗面室⇄LDK⇄寝室と回遊できるプランになっていいます。洗面スペースでは、二人で同時に使えるように大きな洗面ボールをカウンターの真ん中に置き、手元を明るくする窓下には、お気に入りのガラスモザイクタイルを貼りました。洗濯機は目立たない位置に設置し、隣には下着やリネン類を仕舞える引き出し付の家具収納を設けています。床はチェリーのフローリングです。
吹き抜け周りの回遊動線



住居スペースの回遊動線の中心にある吹き抜けは、外周の1面は壁ですが、2面は透明ガラス、1面はフロストガラスで作られています。フロストガラスのLDK側の棚はガラス製で、お気に入りの器を飾る場所です。飾られた器はフロストガラスを通してぼんやりと見えます。洗面とキッチン中間にあるパントリー前からは、吹き抜けを通して階段側を見通せ、1階のアトリエの様子もわかるようになっています。日が暮れると、吹抜はガラスのペンダントライトで照らされます。
ロフト 屋上テラス


最上部には宿泊にも使える細長い約7畳の部屋があります。ここは天井が低く明るさが抑えられていて、壁には生成りの和紙を貼った、落ち着ける場所です。屋上テラスに面した窓のプリーツスクリーンを開けると隣地の緑が見え、直接屋上テラスにでることもできます。布団を入れる押入と、お気に入りのものを飾れる板の間も設けました。
[Photo : 平井広行+Archiplace]